ONE LOVE ボブ・マーリーの真実 Vol.3
2024年06月13日
写真と文 石田昌隆
アイランド・レコードから、ザ・ウェイラーズ名義でリリースされた初期の2枚、『Catch a Fire』(73年4月)と『Burnin’』(73年10月)は、ボブ・マーリー、ピーター・トッシュ、バニー・ウェイラーの3人が揃っていた。ここでピーター・トッシュとバニー・ウェイラーはザ・ウェイラーズを脱退して、『Natty Dread』(74年)から、ボブ・マーリーはバック・ヴォーカルにアイ・スリー(I-Three)を迎えて、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズとして活動するようになった。
最初の写真は、1994年8月2日、レゲエ・ジャパンスプラッシュ’94で来日したときに撮影したアイ・スリーの3人。左から、マーシャ・グリフィス(Marcia Griffith)、ジュディ・モワット(Judy Mowatt)、リタ・マーリー(Rita Marley)だ。ラスタファリアンは、あなたと私のことを「You & I」ではなく「I & I」と言う。3人の女性は「We」ではなく「I-Three」ということなのだろう。
ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの名曲<Three Little Birds>は、『Exodus』(77年の)に収録された。この曲は、ボブ・マーリーが、ホープ・ロードのタフ・ゴング・スタジオ(現ボブ・マーリー・ミュージアム)の窓辺にやってくるカナリアのような3羽の小鳥を見て作ったという説もあるが、アイ・スリーの3人は、自分たちのことを歌った曲だと主張している。マーシャ・グリフィスは「この曲が書かれた後、ボブはいつも私たちのことを “Three Little Birds” と呼んでいた」と証言している。
「Cause every little thing’s gonna be alright」と歌うところが、<No Woman, No Cry>で「Everything’s gonna be all right」と歌っているところと同じように、ボブ・マーリーの、願い、希望、あるいは祈りのように感じられて胸を打つ。
マーシャ・グリフィスは、アイ・スリーに加入する前からヒット曲をたくさん出していた歌手だった。とりわけ、ボブ・アンディとのデュエット、ボブ&マーシャによるニーナ・シモンのカヴァー、<Young, Gifted Black>(70年)は素晴らしい。この曲と、ビートルズのカヴァー<Don’t Let Me Down>(69年)などを収録しているベスト盤『Put A Little Love In Your Heart』(93年)は最高だ。ジュディ・モワットはソロ作『Black Woman』(79年)に収録している<Joseph>で「Joseph we love you」と歌っている。マーシャ・グリフィスも『I Love Music』(86年)に同名異曲の<Joseph>を収録している。この「Joseph」とは、2月生まれのラスタマン、つまりボブ・マーリーのことだ。
リタ・マーリーの初めてのアルバム『Who Feels It Knows It』(80年)はリアルタイムで買って愛聴していたが、シングルではすでに、60年代からボブ・マーリーとのレコードを出していた。
映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』に、ボブ・マーリー、ピーター・トッシュ、バニー・ウェイラーの3人が揃って<Stir It Up>を歌っている実写映像が出てきた。これはザ・ウェイラーズの73年4月のイギリス・ツアーのとき、BBCで放映されていた音楽番組『The Old Grey Whistle Test』に出演したときのものだ。まだ短いドレッドロックス・ヘアのボブ・マーリーが横を向き、まったく笑顔にはならずに、強い意志を持って淡々と歌い上げる姿に引き込まれる。
この写真は、91年7月25日に東京プリンスホテルの部屋で撮影した。このときバニー・ウェイラーに『The Old Grey Whistle Test』に出演したときのこと訪ねたら「ああ、あの頃は、ザ・ウェイラーズのレコードを聴いて、本当に僕たちが演奏しているって信じない人がいたから、それを証明するために出たんだ」と言っていた。普段アイタル・フード(ジャマイカのラスタファリアンが食べる自然食)しか食べないバニー・ウェイラーは、このツアーですっかり消耗して、ジャマイカに戻ると同時にウェイラーズを脱退してしまい、73年7月のアメリカ・ツアーには同行しなかった。バニー・ウェイラーのソロ・デビュー作『Blackheart Man』(76年)は傑作だ。ピーター・トッシュは、1987年9月11日に自宅で強盗に射殺されてしまった。ぼくは残念ながら観る機会がなかった。
ベースのアストン・バレット(Aston “Family Man” Barrett)と、ドラムのカールトン・バレット(Carlton “Carly” Barrett)。この写真は両方とも1982年にジャマイカで撮影した。ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズのメンバーは、キーボードやギターは活動時期によって違うメンバーが入っているが、リズム・セクションのバレット兄弟は、一貫してボブ・マーリーの音楽面を支えていた。
アストン・バレットの写真は、愛車のBMWに乗せてもらってブルー・マウンテンに行ったとき、カールトン・バレットの写真は、タフ・ゴング・スタジオの庭で撮影した。アストン・バレットは、2024年2月3日に77歳で亡くなるまで活躍したが、カールトン・バレットは、1987年4月17日に自宅の前で殺されてしまった。
Text & Photo by Masataka Ishida